交通事故相談なら弁護士法人エース傷病別解説CRPS(RSD)の方

CRPS(RSD)の方傷病別解説

交通事故で、主に認定される後遺障害を紹介します。

交通事故で、
主に認定される後遺障害を紹介します。

CRPS(RSD)の方

CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは?

CRPS(Complex regional pain syndromeの略称。日本語では複合性局所疼痛症候群と言います。)とは、軟部組織の損傷や骨折等の傷害を負い、その傷害が治癒した後にも、その組織損傷から予測されるより重度の痛みが遷延する、慢性の神経障害性疼痛です。
CRPSは、神経損傷が明らかでない「CRPS typeⅠ」(従来、RSD(反射性交感神経性ジストロフィー)と呼ばれていたものはこれに該当します。)と、神経損傷を伴う「CRPS typeⅡ」(従来、カウザルギーと呼ばれていたものはこれに該当します。)の2つに大別されます。
主として四肢に慢性疼痛(灼熱痛、誘発痛等)の神経症状が現れる傷病で、特徴としては、捻挫のような比較的軽度と思われる傷病からは想像できないほどの疼痛が慢性化してしまうという点や患部が腫れチアノーゼ状になっているなどの点にあり、交感神経の過度な活性化が原因ではないか等といわれていますが、正確なメカニズムまでは解明されていないといってよい傷病です。  例えば、交通事故で手首の靭帯を負傷した被害者が、負傷した靭帯については治療が終了したにも関わらず、もともとの負傷とは不釣り合いな痛みや腫れがいつまでも収まらない場合には、CRPSの可能性があります。
 ただし、はっきりとした原因となる外傷がなく発症する場合もあります。

CRPSの患者には、アロディニア(通常では疼痛をもたらさない微小刺激が、すべて強い疼痛として認識される感覚異常)、痛覚過敏、感覚過敏、感覚低下、触覚異常、皮膚色変化(発赤、紅潮、チアノーゼ、青白い、斑状の変化など)、発汗異常(過剰、過少、発汗停止)、皮膚温度の異常(温度上昇あるいは低下)、浮腫、皮膚萎縮と皮膚色素沈着、皮膚のしわの消失と光沢化、関節の可動域制限、骨萎縮、筋萎縮、筋力低下など、多彩な症状が見られます。  CRPSは早期の診断及び治療が大切であるとされており、症状が進行すると、痛み等の出る部位が、もともとの受傷部位に止まらず、四肢に広がる場合があります。

CRPSの臨床における診断と治療方法とは

医療機関において患者の症状をCRPSと診断する際の、臨床用のCRPS判定指標として、厚生労働省CRPS研究班は、下表1のような指標を提唱しています。

表1 厚生労働省CRPS研究班から提唱された本邦版CRPS判定指標(臨床用)

  • A 病期のいずれかの時期に、以下の自覚症状のうち2項目以上該当すること。
    ただし、それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。
    • 1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
    • 2.関節可動域制限
    • 3.持続性ないしは不釣合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み(患者が自発的に述べる)、知覚過敏
    • 4.発汗の亢進ないしは低下
    • 5.浮腫
  • B 診察時において、以下の他覚所見の項目を2項目以上該当すること。
    • 1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
    • 2.関節可動域制限
    • 3.アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンブリック)
    • 4.発汗の亢進ないしは低下
    • 5.浮腫

CRPSの臨床診断の助けとなる検査方法としては、サーモグラフ(皮膚温の変化を見ます。)、レントゲン撮影や骨シンチグラフィー検査(骨委縮や骨変化を見ます。)、交感神経ブロック(痛みの原因となる交感神経系の失調を特定できる可能性があります。)のほか、筋電図、神経伝導速度検査、CTスキャン、MRI撮影、網羅的感覚機能評価(QST)等があります。

CRPSの治療方法としては、薬物療法(神経ブロック療法、向精神薬等の投薬など)、物理療法(温冷交代浴)、理学療法(関節可動域訓練、運動療法など)があります。

CRPSの後遺障害認定とは

自賠責保険の後遺障害等級認定において、RSDについては、①関節拘縮、②骨の萎縮、③皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)という慢性期の主要な3つのいずれの症状も健測と比較して明らかに認められる場合に限り、カウザルギーと同様の基準により、下表2のとおり、それぞれ第7級、第9級、第12級を認定する旨が定められており、実務上、CRPSについても同様に扱われています。
なのでこれらの観点から必要な検査を受け、医師にはこれらを意識した後遺障害診断書を書いてもらうべきです。また、自覚症状についても灼熱痛や誘発痛(アロディニア)といった特徴的な症状を記載してもらえるとよいでしょう。

臨床用のCRPSの診断基準においては上記3つの症状が必須とはなっていない一方で、自賠責保険の認定においては必須となっているため、医師がCRPSと診断しているにも関わらず、自賠責の後遺障害認定においてはCRPSと認められないケースも少なくありません。

表2 CRPSについての自賠責の後遺障害認定(自賠法施行令別表第二)

カウザルギーについては、疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる他覚的所見などにより、疼痛の労働能力に及ぼす影響を判断して次のごとく等級の認定を行うこととなる。

第7級4号 軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの
第9級10号 通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
第12級13号 通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの

一方で、裁判所は、自賠責保険の基準を参考にしつつも、被害者の障害の内容や程度を実質的に見て判断しており、医学的なRSDの診断基準として提唱されたGibbonsらのRSDスコア(下表3)を参考に認定している判例もあります。自賠責保険の認定では必須とされている骨萎縮が判然としないもののRSDとしての後遺障害を認定した例や、残存する症状の程度の重さから逸失利益の算定において自賠責の認定より高い労働能力喪失率を認めた例などもあります。

表3

以下の各項目につき、点数形式で、それぞれ陽性(+)なら1点、疑陽性(±)なら0.5点、陰性(−)なら0点として、合計で3点未満ならRSDではなく、3〜4.5点ではRSDの可能性があり、5点以上なら有望なRSDとする。

  • ① アロディニアまたは痛覚過敏
  • ② 灼熱痛
  • ③ 浮腫
  • ④ 皮膚色調変化または体毛の変化
  • ⑤ 発汗の変化
  • ⑥ 皮膚温の変化
  • ⑦ X線上の変化
  • ⑧ 血管運動障害/発汗機能障害の定量的測定
  • ⑨ RSDに合致した骨シンチグラフィー所見
  • ⑩ 交感神経ブロックの効果

以上のとおり、自賠責の後遺障害等級認定、及び裁判所におけるCRPSの後遺障害の認定には、おさえるべきポイントが多く、受けるべき検査等も多いため、CRPSの後遺障害認定の実績のある弁護士に依頼されることをお勧めします。


示談交渉のポイント

CRPSで後遺障害等級が認定されたケースで、8割方相手から主張されるのが素因減額です。素因減額とは、症状が重度化したことに対して被害者自身にそのような素因があったことを主張して、賠償額を減額する法的主張です。素因減額は法律上は明文がないのですが判例上認められるようになったものです。しかし、CRPSの医学的メカニズムははっきりしていませんし、安易に素因減額の主張に応じるべきではありません。特に、身体的素因減額を言うには、身体的特徴の範囲を超えて「疾患」と呼ばれる程度の原因がなければいけませんが、CRPSの場合にはそこまでの素因があることはむしろレアケースであると思います。それを踏まえて粘り強く交渉していく必要があります。